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2/18/2025 音楽家と作品への雑感「モーツアルト」

執筆者の写真: Takeaki IidaTakeaki Iida

第16章 V. アマデウス・モーツアルト (No.1)

(Volfgang Amadeus Mozart)    (1756年~1791年35歳没)


モーツアルトの出生地ザルツブルグはカトリックの勢力の強いローマ風の小都市であった.父親レオポルトは姉のナンネルルと弟のヴォルフガングに幼少時からクラヴィアを習わせたが、ヴォルフガングは異常なまでの才能を示していた.


父は6歳のヴォルフガングと11歳のナンネルルを連れてミュンヘンに演奏旅行を試み、その後の10年間はパリ、ロンドン、アムステルダム並びにイタリアへの演奏旅行で費やされた.17歳からの7年間、ヴォルフガングはザルツブルグの宮廷音楽家として活躍する.マンハイムへ旅した際にウエーバー家のアロイジアに恋心を抱くも失恋するが、その後アロイジアの妹コンスタンツエと26歳で結婚する.25歳でザルツブルグ大司教と決裂し、独立した音楽家を目指して以降はウイーンに定着する.


次々と作曲する作品は市民に熱狂的に迎えられたが、妻のコンスタンツエは家計を切り盛りする能力に欠け必ずしも経済的な成功を意味しなかった.長男、三男、父親の死に遭遇し、自身も重病を経験する羽目に陥って、世俗的な成功とは裏腹の、暗い物心両面の生活のうちに最後の4年間を迎える.32歳(1788年)の2か月間に所謂、3大交響曲を完成し、34歳の年に歌劇「魔笛」の完成を間近に、鼠色の服を着た未知の男の訪問を受け「レクイエム」の作曲を依頼され、未完のまま35歳でこの世を去った.


この度、視聴した演奏からモーツアルト音楽の印象を短く綴ってみたものは下記の通り.


交響曲:モーツアルトが生活苦の最中にあった1788年の2か月という短い期間に、後に「最後の三大交響曲」と話題にされる交響曲第39番、第40番、第41番《ジュピター》が作曲された.第39番の晴朗な美しさ、第40番の高貴な哀しみ、第41番の輝かしい壮麗さのどこにも、暗い世俗的な影が見えない素晴らしい作品.モーツアルトの全41曲の交響曲の中で短調で書かれているのは第25番と第40番のみ.近年の演奏会録画ではニコラウス・アーノンクール指揮のウイーン・フィルハーモニー管弦楽団(2006年、東京公演)の第39番、第40番、第41番の連続演奏がモーツアルトの生まれ故郷の音色を感じさせる演奏で、際立って心に沁みた.


協奏交響曲:協奏交響曲 変ホ長調 K.364は思い出のウイーン楽友協会での演奏会の現地で購入したCDで聴いたが、モーツアルトがマンハイム・パリの旅行(1797~99年)の際に、当時の演奏会でもてはやされていた複数の独奏楽器による協奏交響曲をザルツブルグに帰郷後に作曲した名曲.


ヴァイオリン曲:ヴァイオリン協奏曲第3番の第1楽章はオーケストラとソロの掛け合いの妙、アダージオの極めて美しいメロディが心地よく響く.第5番は第3楽章の中間部に突如トルコ風のリズムを持つ楽想が現れ、名手ユーディ・メニューインの演奏はモーツアルトのヴァイオリン協奏曲の中でも最もポピュラーな名曲を楽しませる名演.


管弦楽曲:セレナード第13番《Eine Kleine Nachtmusik》はやはり名曲.今回はオトマール・ズイトナー指揮/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団とフルトヴェングラー指揮/ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で聴いたが改めて思った.ディヴェルティメント(喜遊曲)ニ長調をイ・ムジチ合奏団で聴いたが清澄な軽やかな演奏で素晴らしい.第17番はメヌエットを2つ持つ6楽章から成り、特に第3楽章メヌエットは、所謂《モーツアルトのメヌエット》といて有名.


クラリネット協奏曲:クラリネット協奏曲イ長調 K.622も思い出のウイーン楽友協会での演奏会の現地で購入したCDで聴いた.友人アントン・シュタードラー(クラリネット奏者)のために亡くなる数か月前に作曲したオーケストラとソロが程よい比率で織り込まれている名曲.クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581は「シュタードラー」の副題が付くが、この曲も友人のために作曲しただけあって、感情表現の濃さや、楽器の協奏的な扱いと室内楽的な緻密さも、楽器の編成も申し分ない名曲中の名曲.特にレオポルト・ウラッハ (Cl)/ウイーン・コンツエルトハウス四重奏団の演奏はウイーンの演奏様式の醍醐味を満喫させてくれるものであり断然良い.


フルート協奏曲:フルートとハープのための協奏曲K.299はパリ滞在中にド・ギーヌ公爵の依頼により作曲された作品で、ソロ楽器の特性をフルに活用した優雅な楽想、流麗な

曲運びなど上品なサロン風の音楽に聴こえる.フルート協奏曲第1番より第2番の方がより美しいがジェームズ・ゴールウエイは天性のフルーティスト.


フルート四重奏曲 第1番~第4番までも聴いたが、ソロ楽器としての弦楽器団との音の相和性はフルートよりもクラリネットの方が可成り高いと私は感じた.モーツアルトもフルートという楽器の機能性の不足や音程の不安定さなどの理由で、あまり好まなかった楽器だったとの記録があるようだ.


ピアノ・ソナタ並びに協奏曲:ピアノ・ソナタ第1番~第7番及び第9番はグレン・グールドの演奏で、どれも心地よく

聴ける佳作.ピアノ・ソナタ第8番はディヌ・リパッティの演奏が絶妙.ピアノ・ソナタ第11番《トルコ行進曲付》は速いテンポとリズム感が抜群に心地よい名曲.ピアノ協奏曲第20番及び第21番はモーツアルトの全作品の中でも極めて美しい名曲.第21番はバレンボイムとリパッティの演奏で、特に第2楽章がスエーデン映画「短くも美しく燃え」に使用されたこともあり、はかなくも美しい旋律が心に沁みる.第23番はルービンシュタインの演奏で聴いたが、メランコリックな旋律の第2楽章シチリアーノによるアダージオ、第3楽章のロンドは特に記憶に残る.藤田真央のスイス・ヴェルビエ音楽祭2021のモーツアルト・リサイタルは、真に軽やかに、エネルギッシュに見事な演奏.ピアノ・ソナタ第10番を演奏するホロヴィッツには、あの巨匠アルゲリッチが仰け反るように、その精緻な鍵盤上の柔らかいタッチを褒めているシーンが映って感動する.現代最高のピアニストのアルゲリッチ&バレンボイムによる”2台のピアノのためのソナタ”1曲と ”ピアノ連弾ソナタ”3曲は、二人の息の合った貴重な名演奏だった.


宗教曲:モテット「踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ」は名曲中の名曲.マリア・スターデルのソプラノを久し振りに聴き直した.ミサ「戴冠式ミサ」も久し振りに聴いた.音楽史上最高のレクイエムと言われる「レクイエム」は学生時代に合唱団メンバーとしてステージでも歌ったが何度聞いても心が落ち着く名曲だ.レコードで聴く、カラヤン&ベルリンフィルも良いが、ビデオで観るクラウス・マケラ指揮のロイヤル・コンチェルト・ヘボウの演奏は圧巻だ.又、ザルツブルグのフェルゼンライトシューレ(Felsen Reit

Schule)のムジカ・エテルナ管弦楽団及び合唱団による演奏並びにウイーン楽友協会合唱団の日本での演奏会のビデオ録画演奏も個性的で素晴らしい.


アリア曲:シュワルツコップの歌で20曲ほど聴いたが特に「すみれ(Das Vilchez)」や「春へのあこがれ(Sehnsucht nach dem Frühling)」が気に入った.




























今回の雑感記録に際して、改めて聴き直した作曲家の作品リストをご参考までに下記の表にした.


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