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執筆者の写真Takeaki Iida

4/12/2022 音楽家と作品への雑感 「シューベルト」

第4章 フランツ・ペーター・シューベルト

Franz Peter Schubert

(1797年~1828年 31歳没)


第4章にシューベルトを選んだ理由は何故か? 一昨年 (2020年) はベートーベン生誕250周年記念の年、昨年 (2021年) は5年振りのショパン国際コンクールの年で、それぞれの年に対象の作曲家の作品を演奏するコンサートやテレビ放送が非常に多く、少々聴き飽きた一方、シューベルト作品を聴く機会が少なかったので、じっくりと聴きたいと思った次第.


ウイーン近郊のリヒテンタール (Lichtental) に生まれたシューベルトは、農民出の教師の父親の最初の妻との間の14人の子供の第4子だった. 幼い頃に父や兄から楽器の手ほどきをうけ楽才を発揮していたが、12歳で王立礼拝堂の児童合唱団員として神学校コンヴィクト (Konvikt) に入学. 初等から高等学校までの課程を修了すると共に音楽の専門教育を授けられた. 16歳でコンヴィクトを去り、父親の手助けをし師範学校に通いながら作曲活動を始めたが、楽器演奏は左程の才能が無かったようで、音楽教師をしながら弟子たちからの支援で生計を立てていた. 生地リヒテンタールの教会で初演した 「ミサ・ヘ短調」 のソプラノ歌手、テエレーゼ・グローヴ (Therese Grob) 、に想いを募らせたが彼の内気な性格で実らなかったが、その後、19歳頃から作曲した「交響曲第4番」「第5番」や「鱒」「死と乙女」などでは、既にシューベルトの歌曲作曲家としての作風の充実と完成を見せている.


20歳の頃、以前から世話になっていた詩人の F.ショーバー (F. Showbar) の紹介で知り合った20歳年上のバリトン歌手、ヨハン・フォーグル (Johann Vogel)、 と無二の親友になり、シューベルトのリード(歌曲)が彼の公開演奏で好評を博し、良き友人の助力で彼の名声は次第に高まり、シューベルトを中心とした友人たちの集まり「シューベルティアーデ」 (Schubertiade) が結成された.


20歳代後半に「美しき水車小屋の娘」「冬の旅」や「交響曲第7番《未完成》」等を次々と作曲し、30歳の時に尊敬していた同じウイーンの大作曲家ベートーベンが3月に没し、彼も松明を持って葬列に参加している. その年の9月にはグラーツ (Graz)を訪れ自作の演奏会を開いて快適な日々を送り、「即興曲」「楽興の時」など作曲した. その翌年3月の自作発表会で大成功を収め、初めて大金を手にした彼は借金を返済し、友人にご馳走し、念願の新しいピアノを買って大金を使い果たした. その年の10月にハイドンの墓参に出かける旅立ちをした. その後は健康が急激に悪化し11月にチフスと診断され生涯を閉じた. 本人のうわ言を尊重して遺骸は尊敬するベートーベンの墓の近くに埋葬された.


交響曲第8番 「ザ・グレート」 は聴きとおすのが大変な長さだと、学生時代にレコード観賞会で講師が紹介していたことを時々思い出すが、私の今の年頃には丁度良い長さに思えて、心が休まる旋律が流れる大変な名曲と感じる. 聴きなれたカール・ベーム指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏を聴くと私は特に落ち着く. 又、デーヴィット・ジンマン指揮NHK交響楽団 (2009年) 演奏も大変に楽しめる. 交響曲第7番「未完成」も劣らぬ名曲だが、副題が 「未完成」 と言うだけあって、もう少し長く聴きたいと思うのは勝手な贅沢かも知れない. 交響曲第2番はモーツアルト的だが第4番 「悲劇的」 になるとベートーベン的な弦の重厚な響きが随所に聴こえる. 


ピアノ曲 「楽興の時」 は歌曲を彷彿させる美しい旋律が随所に表れ、特に第3番(ヘ短調) はNHKの音楽番組のオープニングにも使われてから一般にも愛好されている. ピアノ五重奏曲 「鱒」 は眞に名曲. ヤン・パネンカ (ピアノ) とスメタナ四重奏団の録音は聴く度に魂を揺さぶられるほどの名演奏、名録音だと感じる. ピアノ三重奏曲第2番は長調ながら悲しげな短調的旋律が随所に流れシューベルトらしい名曲だと思う. 最後のピアノソナタ第21番は眞に神聖な天上の音楽と言うにふさわしい至高の傑作である.

歌曲集 「美しき水車小屋の娘」 は歌唱力のあるディートリッヒ・フィッシャーディスカウの演奏で、ごつごつしたドイツ語の発音を緩急の曲がほぼ順番に並べられた美しい歌曲を全曲通して聴くことができる. 歌曲集 「冬の旅」 はハンス・ホッターの歌で全曲をこれまで数度聴いたが 「おやすみ」「菩提樹」「春の夢」 以外は暗い曲であまり好きになれないのが正直なところ. ずうっと現代に近いクリスティアン・ゲルハーヘル (バリトン) とゲロルト・フーバー (ピアノ) の全曲を聴いたが、こちらは遥かに聴きやすく歌詞が説得力ある内容として伝わってきた. 作曲家の死の1年前に書かれた曲で、死に対する不安、恐怖、絶望などが表現されているのか.


かのアインシュタインによると、シューベルトが偉大な作曲家になったのは、連弾曲が友情の証だから…とか、ピアノ連弾にも佳作が多い. シューベルトの曲は簡潔な中に高い芸術性がある気がする.


シューベルト曰く、「私が愛を歌う時、それは苦悩となる. 私が苦悩を歌う時、それは愛となる」. 眞に、至言であると思う.

今回の雑感記録に際して、改めて聴き直した作曲家の作品リストをご参考までに下記、表にした.

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