〈作者と内容〉「ペスト」はフランス人作家アルベール・カミュの代表作. 1913年生まれ.29歳で「異邦人」を出版し、40代でノーベル文学賞受賞.「ペスト」は、カミュ自身が生まれた当時のフランス領アルジェリアが舞台.ある街がネズミからのペスト菌に侵されてしまう. 民衆が感染し、死亡していく中、そこに住む医師リウーや、神父パヌルーなど、立場が異なる人間の葛藤や争い、人間模様を描いた、1947年に出版された小説である.
主な登場人物:
· リウー 医師(妻はパリで療養中)
· タルー 彼の手帳がこの作品の鍵(リウーの医療活動を手伝う)
· グラン 下級役人
· パヌルー 神父(人間の罪深さがペストを巻き起こしたと言う)
· オトン 判事
· コタール 犯罪者
· リシャール 医師会長
· ランベール 新聞記者(フランスへの帰国を断念し医療活動を手伝う)
<ブッククラブでの感想> (この本は2020年の4月の課題図書)
コロナ禍の2020年、「私達の行く末がこの本に書いてあるのではないか. 人間の心情は人種を問わず同じだから」という期待があった. どの登場人物にも自分に重なる弱さを見つけたが、登場人物が医者、神父、記者など中年のおじさん(!?) ばかりで、硬いまま進んでいくので「まだ続くの?」と感じた部分もあった(女性は登場せず、恋愛なども無い). アルジェリアというイスラム教の土地柄、当時の伝染病禍においては特定された人が外出できたのかもしれない.
とは言え、いくつもの層になっている様に感じる本でカミュ自身に興味が湧いた.サルトルと決別し、彼の主義主張を考えると、読後は(理解よりも)質問の方が多くなっていった.この本を若くして書いたカミュは、興味深くも謎めいた作家だと思う.
第二次大戦中、ドイツ占領下だったフランスのメタファーの意味もあるのではないか?政府や人々が尊厳を持って肉体的にも精神的にも苦境に立ち向かう状況に行きつくまでの心境は、戦禍もコロナ禍も似ている.
ペストとコロナとは病気としては違うが、アンコントローラブルという意味では同じ.さすがノーベル賞作家の本であると思うのはトニ・モリスンと同様、作品に厚みがあり、描写が深く丁寧だと思った.と同時に、やはり翻訳本だと日本語が硬くてこなれていない感じもあった.登場人物はどの人にも味があり、私の現状はどちらかというとその他大勢という感じ.
個人的には自分でも少しは可能かなと思い、そうありたいと願う姿はグランだと思う.小説の書き出しを何度もやり直すのは笑ってしまうが、こういうことに執着するところは自分にも重なるところがある.リウーは魅力的だが、私にはこれほどの誠実さも反抗する気力も力もないと思う.どの人物も魅力的で面白かった.登場人物が男性ばかりだったのはちょっと残念だったが、それは時代背景なのかとも思った.同時にリウーの母親はマリア像として圧倒的な存在であることは確かだと思う.今回のコロナのニュージーランドの対応と、ドイツの対応を扱った、女性首相を中心にした本が出ると面白いと思う.
私自身は当初この本を手に取った時、藁をもつかむ思いだった.何か手掛かりを求めて、無知な自分と現実とのギャップを埋めようとしていたように思う.ただ、あれよという間に、感染の歴史やウィルス関連モノと併せて乱読状態に陥り、この本だけとりわけ「読みづらい」と認知するゆとりはなかったが、案外、希望や信頼がちりばめてあるし、人物像に心惹かれるものもあり、つい課題図書として薦めてしまった.
一度読んだだけでは作家の意図が理解できない、というのが読み終えた直後の感想であって、ノーベル賞作家だけに文章のひとつひとつが丁寧で深い意味が込められているように感じられた.今回はそれを理解しようとする時間に余裕がなかったのと、日本語訳がすんなりと入ってこなかったのが残念であった.
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