この作品は映画「ドライブ・マイ・カー 英題:Drive My Car」で有名になった作品で、映画は「女のいない男たち」という村上春樹著の短編集の3作品で構成されているため、ブック・クラブでもその三作品を読んだ.
<あらすじ>
1.「ドライブ・マイ・カー Drive My Car」
主人公家福は俳優で、妻は女優だったが10年以上前に死亡している.緑内障をきっかけに家福は若い女性運転手、みゆき、を薦められ雇うことにする.みゆきは家福の黄色のSaab 900コンバーティブルを無口で淡々と運転する.ある日、みゆきが家福に「友達は作らないの」と聞いたところ、家福は妻の浮気相手の高槻という男と偶然出会って「木野」というバーで飲み、その後も飲み友達のごとく何度もバーで会っては話したという.家福は「その高槻という男の言葉が心に響いたから、それ以来、友人はいない」と答えた.
2.「シェエラザード Scheherazade」
会社員男性と逢瀬を重ねる主婦は、男から「シェエラザード」という千夜一夜物語からのニックネームで呼ばれるようになる.女は逢う度に男に「女子高生が同級生の家に空き巣に入る」といった空想の話を聞かせる.
3.「木野 Kino」
木野という男の主人公は妻が同僚と浮気をしていたのを知ったのをきっかけに、会社を退職し、離婚し、その後ジャズ・バーを開く.やがて、妻が謝りに来て、野良猫が彼のバーに来るようになる.秋になると、まずその猫がいなくなり、それから蛇たちが姿を見せ始める.
〈ブック・クラブでの感想〉
・映画のストーリーの中心になった「ドライブ・マイ・カー」では、妻の度重なる浮気を問いたださないまま、妻が亡くなってからも、現実から逃避する主人公が「自分は俳優だから、妻の浮気が頭をよぎった時には別の人物を演じる」と何度も語る箇所に興味をもった.俳優だから、というより、主人公は妻の浮気に寛容になれず「妻の人生と自分の人生は違うものだと考えられなかったのではないか?」また主人公は男のプライドが邪魔をして「正面から現実に向き合えないのではないか?」と思った.
・「シェエラザード」で会社員男性が会う主婦についての描写はひどすぎると思った.中年女性がどれだけ魅力がないかを延々と書いているのは、村上自身が女性を「物」として見ているからだと思う.彼の作品では、女性が登場した時の描写が安っぽい恋愛小説かと思う説明が多く、常に心にひっかかる.
・「木野」は本書の中でも、村上春樹ならではの異次元に連れていかれる感じを強く受けた.蛇がずっと頭をよぎるけれど、それが何の象徴なのか、結論がでないまま読み終えてしまった.
・「木野」はストーリーの展開が予想外だった.ブック・クラブ メンバーの「村上春樹が女性をどのようにとらえているか」についての鋭い意見と感想には目から鱗だった.今まで自分はそのようには考えてもみなかった.
・村上春樹は好きな作家ではなく、やはり今回の作品の感想も(ブック・クラブで以前読んだオーウェル、モーリヤック、ジョイス、イシグロの様に)読者に ”人生の味わい” や ”人生に関する何か” に気付く機会を与えたりするような作品ではなかった.つまり、本の内容が記憶に残らないと予測でき、やはりノーベル賞受賞作家のレベルとは違うような気がした(村上自身も恐らくノーベル賞を狙ってはいないと思うけれど).そして、出版が比較的最近であるにもかかわらず、女性の描写が古臭くバブル時代に書かれたのではないかと思った一節もあり、それでも彼の本が売れるのには少々驚く.但しサリン事件の「アンダー・グラウンド」は確かに力作だと思う.実際私も2000年頃のSaabに乗っていたが、故障が多くて長く乗れる車ではなく、特に日本で黄色のSaab 900コンバーティブルを乗っているということ自体が「この主人公はどのくらい目立ちたがり屋なんだ?」との考えがよぎる.今回の作品は、村上原作の著書より映画の方がよくできていたと思う.
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